妊娠中に女子刑務所へ入ったら。刑期中の出産は、手錠をかけたまま分娩台に

受刑者とはいえ、あまりにも非人道的で狂気を感じます。

日本経済新聞社が、「受刑者の出産、手錠なし 14年から法務省が方針」という記事を公開しました。妊婦の受刑者についての記事です。

収監前に妊娠している女性は、刑期によっては受刑中に出産を迎えることになりますよね。しかし刑務所内には出産の設備がないため、一時的に施設外に出る必要があります(警察病院など)。その際、陣痛が始まって移送される時から、分娩台で出産し、元の刑務所に戻ってくるまでのあいだ、手錠をかけておくよう法律で決まっていたそうです。

理由は、逃亡を防ぐため

移送中は仕方がないにせよ、分娩台の上でも手錠をかけるとは異常だと感じます。こんな時に逃げるなんて可能なのでしょうか。また、手錠を掛けらまま挑む出産には精神的に負担がかかり、胎児へ悪影響がないのか心配にもなります。

刑事収容施設法は、受刑者を護送する場合や受刑者が刑事施設外にいるなど逃走の恐れがある時は、捕縄または手錠を使用できると定めている。このため、各刑務所の判断で、女性受刑者が施設外の病院で出産する際は片手に手錠をかけ、手錠につないだ縄を刑務官が持つなどしていた。

日本経済新聞

2014年末から「分娩室に入っている間は手錠を使用しない」に

手錠をかけられたままの出産対し、2014年、転機が訪れました。

実刑判決を受けた妊娠中の女性(当時30代)が、「手錠を掛けらたまま出産に挑まないといけない」と事実婚の夫に手紙で伝えたことがきっかけです。それを知った夫が刑務所などに働きかけたことで、服役中の妻が2014年11月に手錠なしで出産することができたのです。岐阜県の笠松刑務所での出来事でした。

その後、法務省の指示により、同年12月26日以降「出産時は手錠をしない」と、これまでのルールが変更されました。

それにより、翌2015年には、全国で23人の女性受刑者が手錠無しで出産したそうです。

女子刑務所での獄中出産。赤ちゃんはどこへ? 産後の育児はどうなるの?

新生児をだく母親

受刑者は赤ちゃんを産んだからといって、母子が一緒に暮らせる訳ではありません。

女子刑務所での様子をNHK Eテレの番組「ハートネット」が取材し、昨年2016年6月、女子刑務所での育児についての特集が放送されました(密かに産まれる命 女子刑務所 出産・育児は…)。

過去の放送がインターネットで見られる「NHKオンデマンド」にラインナップされていなかったので、僕は見ることができなかったのですが、当時この番組を見てブログに感想を書いている方がいましたのでご紹介します。

■関連リンク
女子受刑者のいわゆる獄中出産について知ってしまった日:のぞきあな
http://ningen-kousaten.com/2017/02/26/children/
(【追記】メンテナンスモードで現在記事は読めなくなっています)

 

要点をまとめると、女子刑務所での出産・育児については、以下のとおりです。

  • 刑務所外での出産後、授乳は手錠をかけたまま
  • 手錠が赤ちゃんに当たるので、うまく抱きしめることができない
  • 法律では、1歳半までは受刑中であっても子育てが許される
  • 20年くらい前までは刑務所内に育児スペースがあったが、今は女性受刑者増加と刑務官不足で手が回らない
  • 現状は、産後すぐに母子が引き離される
  • 引き取られ先は、3割が受刑者の両親、7割が施設
  • 母子の愛着形成は生後9ヶ月頃にできあがるが、この時期を一緒に過ごせない
  • 出所後、子供がイヤイヤ期真っ盛りで「誰だよコイツ」と愛情が湧きづらいことがある

女性受刑者のおよそ9割は、懲役3年以下

入所受刑者の年齢層別構成比(男女別)
画像参照元:犯罪白書 – 入所受刑者の年齢層別構成比(男女別)

入所中に出産した場合、出所後の子供の年齢は「0歳から2歳」が大半となります。

また、刑務所内での育児が機能しなくなった背景には、女性の受刑者がこの20年のあいだに2.5倍と急増した、ということがあります。

薬物依存、孤立など、容易ではない問題

わが子の誕生は、「子供のためにがんばろう」と、更生のきっかけになりえるでしょう。そのため、積極的に母子が一緒に過ごせるようにした方が良いのでは、と考えたくなります。

しかし、そう単純なものではないかも知れません。

女性受刑者の罪状のおよそ4割は、覚せい剤です。その場合、入所中に中毒による禁断症状で苦しむ場合があるので、刑務所内でうまく育児ができるかどうかの不安があります。また出所後、社会にうまく馴染めない、経済的に不安がある、再び覚せい剤に手を出してしまうなどで、子供に十分な愛情が注げず、育児放棄や虐待を引き起こすこともあるでしょう。

とはいえ、犯罪歴があるから、リスクがあるから、と言って「母子を引き離すべき」という考えも極論で非人道的です。

今回の「分娩室では手錠をはずす」は、長らくの悪習が前進したと言えますが、受刑者の出産・育児については、まだまだ大きな問題を抱えていそうです。

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閉ざされた鉄扉の向こうにある「受刑者の生活」と「刑務官の仕事」。刑務所を24年にわたって取材し続けている著者が、120点以上の写真と文章で伝える渾身のルポ。

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(女子刑務所 知られざる世界 より)

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