赤ちゃんが生まれたあと、最も辛いのが「眠れない」ということです。
不眠症になるわけではありません。
赤ちゃんは四六時中、泣いたり、おっぱいを求めたりします。おむつの交換は、多い日だと1日に20回ほどありますし、授乳も毎日10回ほど行います。それに加えて夜泣きもあります。そのため、眠くても寝られないのです。
人間の欲求を5段階で示した「マズローの欲求」というのがあるのですが、その第一階層は生理的欲求。つまり、食べたい、寝たい、排泄したい、といった人間が生きるための欲求です。これは、自分の意思ではどうにもならない、もはや生存本能といえる欲求です。
産後しばらくは、この「寝たい」が、まったく満たされないのです。
泣きのピークは生後3か月と言われていますが、そこで終わるわけではなく、生後6か月、1歳をすぎても続きます。その間、1〜2時間単位の細切れ睡眠が続き、親は完全に疲弊します。
そんな中、とても悲しい事件が起こりました。
育休中の母親が、生後3か月の娘を殺害。睡眠不足に悩む
育児休業中の母親(31歳)が、生後3か月の自分の子どもを殺害した、という事件です。
新潟県長岡市職員の女が、生後3カ月の長女を自宅で殺したとして12日、殺人の疑いで県警に逮捕された。周囲に育児の疲れを漏らしていたという。日中、二人きりの母子に何があったのか。県警は、衝動的な犯行だった可能性もあるとみている。
県警によると、逮捕された〇〇〇〇容疑者(31)は12日午前11時ごろ、抱いていた長女の〇〇ちゃんを床に落とし、殺害した疑いがある。容疑を認めているという。司法解剖の結果、〇〇ちゃんの死因は脳挫傷などによる外傷性ショックで、日常的な虐待を示すような目立った外傷はなかったという。
捜査関係者によると、〇〇〇〇容疑者は「(〇〇ちゃんを)複数回、床に落とした」と供述をしているという。
虐待の様子はなく、警察は「衝動的な犯行」と見ているそうです。
また、このお母さんは、実はある問題に悩んでいました。それは、睡眠不足です。
生後4カ月未満の乳児がいる全家庭を対象にした市の「こんにちは赤ちゃん訪問」で訪れた助産師に、「赤ちゃんが夜間に3度ほど起きて授乳するため、よく眠れない」と訴えた。5月8日には、長男の定期健診時の問診票に「よく眠れない」と記入。保健師に「心療内科を近々受診する」とも話したという。
お母さんは、色々と自覚していました。おそらく、心身ともに相当疲弊していたのです。
- 自分は睡眠不足である
- 心療内科へ行こうと思っている
なぜ、こんな事件を……
お母さんはなぜ、わが子をあやめてしまったのか。
詳しい事情はこれから明らかになると思いますが、彼女の勤め先である新潟県長岡市の磯田達伸市長は、記者会見でこう話しました。
「幼い命が失われ、遺憾であり残念。市職員という子育て支援を推進する立場の組織にある者がこういう形になり、受け止めるのもつらい」と述べた。市の子育て支援制度をよく知っているはずの職員が事件を起こした疑いがあることに、「市職員として遠慮したのであれば大きな間違い。市民の一員として積極的に利用して欲しい」と話した。
事件を起こした彼女は、市の職員です。朝日新聞の同記事によると彼女は、「福祉課などを経て人権・男女共同参画課に在籍し、女性活躍のためのセミナー開催などを担当してきた」とあります。
市長は、市の子育て支援制度の利用を遠慮したのではないか、と考えています。
真意のほどはわかりませんが、そうした空気感が職員のあいだであったのかも知れません。
産後の辛さは助けを求めて。夫はしっかり直視して!
事件に関しては以上です。
さて、ここからは一般的な話。
とにかく、産後はこれまでの生活が一変し、連日睡眠すらまともに取れなくなります。さらに育児不安やストレスから、「産後うつ」になる方も、およそ1割います。
「私、ちょっとおかしいかも……」
と、自覚できる場合もあれば、無自覚で周りの人が見て気づくこともあります。
そうした非常に辛い状況を放置し続けると、どうなるのか。母親が自死を選んだり、わが子を虐待したり、あやめたりしてしまうのです。
自覚できる場合は助けを求め、また、夫は妻の様子をしっかりと直視してください。男性は勘違いしがちですが、育休中だからといって、楽をしている訳ではありません。
「産後うつ」とは
産後のうつは体調や生活リズムなどが大きく変化することなどで起きるとされています。
専門家や関連する学会のガイドラインによりますと、主な症状は不眠や食欲の低下、それに興味や喜びといった感情の喪失などで、母親としての責務が果たせていないなどといった自責の念があらわれることもあります。
そうした産後のうつは、出産した母親の10人に1人の割合であらわれるとされています。
産後のうつのリスクを高める要因は、育児不安やストレスとされているほか、過去のうつ病の病歴や妊娠中からの強い不安などもあると考えられています。
さらに、子育てを母親1人で行わざるをえないいわゆる「ワンオペ育児」など、家族などの周囲のサポートの不足などもあると指摘されています。
知ってほしい“産後のうつ”~92人自殺の衝撃~:NHK NEWS WEB(【追記】記事公開終了しました)
「〇〇市・区 + 子育て支援」で、ググってみて
「一体、どこに助けを求めればいいの?」
そんなときは、「お住いの市区町村名」と「子育て支援」というキーワードで、Google 検索をしてみてください。全国の市役所・区役所では、必ず子育て支援の窓口を設けています。
そうしたところに、まずは相談してみましょう。
パパやるでは以前、山梨県にある「産前産後ケアセンター ママの里」の取材を行いました。ここは、県と市区町村が共同で設立した、24時間切れ目のなくママの不安をサポートするための施設です。
そこで、ママの里・センター長の榊原さんは、こうおっしゃっていました。
「ピンチになる前に使ってもらいたいんです。『すごく具合が悪いママが使う施設だ』『これくらいで使ったら申し訳ない』と思っている方がいらっしゃいますが、そんな我慢をするのではなくて、ピンチにならないように使って欲しいのです」
そう、ピンチになる前に、気を使わずに利用したり、助けを求めたりするのが重要なのです。
■パパやる関連記事
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産後、夫が絶対に言ってはいけないこと
また、絶対にダメなのは、以下のような暴言をはいたり、それを思わせる態度をとることです。
「お前は寝てばかり」
「イライラしてうざい」
「すぐに泣いてムカつく」
「頭、おかしくなったのか」
これはあり得ません。絶対に。
対処としては真逆。冒頭に書いた「マズローの欲求の第一階層、生理的欲求はお前には認めない」ということになり、生きることを否定されるようなものです。
また、家庭から逃げて他の女に走る、なんてのも言語道断です。
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産後、夫がすべきことは妻を笑顔に
では、夫は何をすべきか?
それは家庭の事情によって様々ですが、どの家庭、どの夫婦に当てはまることが「ひとつ」あります。
それは、妻を笑顔にする、ということです。
そのためには、妻としっかりと会話をし、妻のニーズや悩みを知り、それに応える必要があります。その繰り返しです。一方的な思いつきで行動しても、笑顔にはなりません。
赤ちゃんを授かったパパは、どうかママの笑顔を絶やさないように頑張ってください。
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