もしあなたが学校の先生で、受け持つクラスの文化祭の出し物が「劇派」と「ダンス派」に意見が分かれた場合、あなたはどうしますか?
ここで多数決をすれば、勝った方は嬉しい。でも負けた少数派は嫌な気分になってしまいますよね。
では、どうすれば良いでしょうか?
今回の記事では、子ども間の意見の相違やトラブルなどの解決法を考えるきっかけとなる本をご紹介します。子育て、特に小学校や中学校など、集団生活を送っているお子さんをお持ち親御さんにおすすめです。もちろん学校の先生にも!
横浜創英中学・高等学校長の工藤勇一さんと、哲学者・教育学者の苫野一徳さんによる対談本「子どもたちに民主主義を教えよう」(英治出版)。現時点でAmazonレビュー「星4.6」「レビュー数328」と、すごく話題の本です!
A案・B案での対立ではなく、対話をすることでC案が生まれる!
さて、冒頭で掲げた、児童・生徒たちの意見がわかれた問題。
多数決以外の方法、何か思い浮かびましたか?
もしここで、対話で解決を試みたらどうでしょうか?
本書ではその事例が書かれていて、対話によりクラス全員が幸せになれる方法を考えた結果、ミュージカルに決まったそうです。これで、劇をしたい人も、ダンスをしたい人も、みんなが幸せになれます。さらに、ステージで演技をしたくない子のために、音響や照明の係として活躍する場も設けられたそうです。
つまり、A案・B案での対立させるのではなく、対話をすることでC案が生まれたのです。
民主主義 = 多数決ではない
私たちはつい、「リーダーが独断するのが独裁で、多数決で決めるのが民主主義だ」と思いがちです。
しかしこれでは、多数決で負けた側は置き去りにされてしまいますよね。
リーダーが多数決を行い、その結果、少数派の意見が押しつぶされてしまうのは、ある意味ファシズム的だと言えるのではないでしょうか。
昨今、日本の教育現場ではダイバーシティ(多様性)やマイノリティ(少数派)について子どもたちに教えていますが、少数派に我慢を強いると矛盾を孕んでしまいます。
多数決で誰かが不利益を被るというのは、真の民主主義とは言えないのです。
生徒が「3対1」で喧嘩! どうすれば対話をさせることができる?
また、中学校で起きた生徒4人によるトラブル事例も紹介されていました。
ゲームの課金がトラブルの発端で、3人と1人に分かれて対立。先生のもとに「こいつが悪い」と言った具合に相談にきたのです。
このとき先生は、4人の話を聞いて「悪いのは〇〇君だ。みんなに謝りなさい」とすべきでしょうか?
ここでもやはり、当事者間の対話が重要です。
先生は、「君たちは、仲裁して欲しいのか? それとも話を聞いて欲しいのか? 一体何を求めているの? この問題を解決できるのは自分たちだよ。卒業までずっといがみ合いたいの?」と、生徒たちに問いました。
すると生徒たちは、「ずっといがみ合うなんて嫌です」と答えました。
ここで先生は「つまり、いがみ合いをやめたいことで全員一致だ! どうするかを考えよう」と対話を促し、子ども自身に考えさせたのです。
3対1の喧嘩が「いがみ合いをやめる方法を話し合おう」へと変わりました。
子どもへの3つの問いかけ
本書では、子どもへの問いかけ方として、3つの手順で解説されていました(*1)。これは家庭でも実践できそうです。
3つの問いかけ
- 「どうしたの?」
- 「どうしたいの?」
- 「何か手伝えることはある?」
*1.「『最新の研究でわかった!自律する子の育て方』(SB新書)をもとに作成」の注釈あり
まず、1の「どうしたの?」により、子どもに自分自身が置かれている状態を言語化してもらいます。メタ認知に必要な内面に意識を向ける訓練になる、とのことです。
そして2の「どうしたいの?」の問いかけにより、子どもは「自分は尊重されているな」とわかります。同時に自分自身の意思の確認にもなります。
最後の3の「何か手伝えることはある?」により、子どもは「この人は私を助けてくれる存在だな」とわかります。つまり、この人は味方。その上で、どんな支援を受けたいのか、もしくは手助けは不要なのかを、子ども自身に判断させます。
このとき、子どもを叱らないのがポイントです。
僕自身、この手順はすごいなと感じました。相手をリスペクトする姿勢をしっかりと出し、子どもの考えを尊重。その上でしっかりと味方になる!
大人として、親として、素晴らしい対応だと感じました。
本書では、こうした考え方についてたくさん語られています。教育者と哲学者の対談だからこそ、話も深くて面白い! いじめへの対処、学校が抱える問題、道徳への課題、教育制度ができた歴史的背景など、ハッとさせられる話がふんだんに詰まっていました。
冒頭でも書きましたが、小学校・中学校など集団生活を送っているお子さんをお持ち親御さん、そして学校の先生ににおすすめです。ぜひ、読んでみてください。名著ですよ。