今、子供に学習机を買わない家庭が増えているそうです。
学習机のパイオニアであるイトーキは、「非常に厳しい状況。購入率が減り、今は新入学生の半分を切る」と苦悩を語っています。
一体、何が起きているのでしょうか。皆さんは、最近の子供たちがどこで勉強をしているのかご存知ですか?
子供はどこで勉強するのが好き? 子供部屋・学習デスク問題
夫婦ふたりでちょうど良い広さだった家も、子供が生まれ、子育てをしているうちに、段々と手狭になってきます。兄弟が多い家庭はなおさらでしょう。
引っ越しや家の購入を検討する大きな節目は、小学校入学前かと思います。転校させずに学校に通わせたい、勉強が始まるので子供部屋を与えたい。そんな親の想いがあるからです。
そんなとき、皆さんはどんな子供部屋をイメージしますか。
まず、学習机がドーンとあって、イスがあって、本棚があって、布団かベッドがあって……。あと、オモチャは普段は邪魔になるので押入れに、という感じでしょうか。
そんな昔ながらの子供部屋が、近年大きく変わってきているようです。
NHK総合「おはよう日本」で、最近の小学生・中学生の学習机事情についての特集がありました。そこには勉強机が無かったのです。
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小学4年生、9割近くがリビング学習。そのメリットは?
NHK「おはよう日本」の学習机特集では、まずはふたりのお子さん(小学生)がいるご家庭を紹介。
対面式のキッチンで、お母さんが食事の準備をしながら、子供はその向かいに座って勉強をしています。宿題や予習・復習は、自分の部屋ではなく、学習机でもなく、キッチンカウンターに座って教科書を開いています。
なぜ、キッチンで勉強をするのか?
このご家庭の母親は、大学の講師としてフルタイムで仕事をしているそうです。平日日中は家事ができないため、キッチンで勉強をすることにより、2つのメリットがあると言います。
- 家事をしながら、勉強を教えることができる。
- 親子のコミュニケーションの時間が取れる。
小学5年生のお兄ちゃんと、1年生の妹がいますが、ふたりとも初めから学習机を買ってないとのこと。母親は、「リビング学習は効率的だと思う。学習机は、もうずっと買わないかもしれないです」と、話しています。
調査によると、リビング学習の割合は小学4年生で9割近く。今やキッチンやリビングで、親とコミュニケーションを取りながら勉強するスタイルが主流となっていたのです。
また、中学2年生でも、6割以上がリビング学習をしています。
リビングで勉強するだけで、賢くなるわけではない。親の協力が必須
注意点は、親のサポートが必須だということ。
子供の質問には答えてあげないといけませんし、テレビやラジオをつけて子供の勉強の邪魔をしてはいけません。当然ながら、リビングで勉強するだけで学力が伸びるわけではないのです。
でも、親も一緒になって頑張る分、子供の学校での様子や勉強の苦手ポイントを把握することができますよね。
親が、子供のよき理解者になれるのです。
学習机はデラックスからシンプルに。奥行きは60cmから45cmに
購入派が選ぶ学習机も変化しています。
かつては高機能が売りで、ゴテゴテとして勉強机でしたね。さらにキャラクター物という……。
そんなキャラクター物高機能デスクは、「6・3・3で12年。コイズミ学習机〜」と高校卒業まで使えるとしてCMが流れていました。
でも今は、シンプルな学習机の人気が高まっています。さらに、奥行きが60cmから45cmへと省スペース化。それを子供部屋ではなく、みんなが集まるリビングに置くのだそうです。
以下は、家具メーカーのカリモクのインテリアコーディネート例です。家族団らんのなかに勉強机がありますね。
日本では戦後、子供の独立心を育てるために子供部屋が広まった。しかし……
ここからは、少し掘り下げて考えてみます。
日本では、ずっと昔から「子供には個室を与えるべき」と考えられていたのでしょうか? 実は、日本で子供部屋が広まったのは戦後なのです。
1946年に出版された、アメリカの小児科医ベンジャミン・スポック著「スポック博士の育児書」がきっかけになりました。本書は翻訳され、世界中で5,000万部も売れ、1946年以降では『聖書の次に売れた』と言われています(参照:Wikipedia)。
本書では、子供の独立心を養うために、子供たちには親とは別室で寝起きさせるべきとしています。
さらに日本では同時期に、食寝分離(食事と寝室の部屋を分ける)・就寝分離(夫婦と子供の部屋は分ける)という考えが政府の住宅計画に盛り込まれ、これらと相まって子供部屋の概念が広まったのです。
ちなみに「スポック博士の育児書」は、現代においてはちょっと危険な本となっています。「抱き癖が付くから赤ちゃんが泣いても放っておく」「母乳は甘え癖が付くのでミルク」などと書かれていて、現代においてこれらの考えは否定されているからです。
放っておくことで、泣かない・笑わないサイレントベビー問題が起き、今では「泣きはコミュニケーション、しっかり抱っこしましょう」とされていますし、WHOは母乳育児を推奨しています。
こうした動きに加えて、子供部屋・親子別室の考え方にも変化が起きているという訳です。
子供部屋は、必要? 不要?
親が子供に子供部屋を与えたい理由は、主にこのふたつではないでしょうか。
- プライベートな空間ができる
- 集中して勉強できるようになる
プライベートな空間は大切ですね。僕が子供だった頃は、とてもありがたいことに小学2年生で妹との共同の子供部屋を与えてもらい、中学になってからは自分の部屋をもらいました。自分専用の部屋は嬉しかったですね! 誰にも邪魔されない、プライベートな個室は最高です!!
ただ、集中して勉強できたか……と言われれば、あまり自分の部屋では勉強をしなかった気がします。今のようにスマートフォンやインターネットがなかったので、邪魔をするものは少なかったのですが、ついつい小説を読みふけっていたのです。ハヤカワSFや山岡荘八などの歴史小説が大好きでした。
集中して、勉強ではなく小説を読んでいましたね。笑
さて、現在の小・中学生の主な勉強場所はリビンクです。「子供部屋」=「集中して勉強」という期待はあまり持たない方が良いでしょう。
プライベートな空間としての子供部屋はあった方が良いでしょう。特に思春期以降は。
でも、勉強という視点から考えると、最重要スペースは「リビング」と言えそうです。今はキッチンとリビングが一緒になっている間取りが主流ですので、いわるる「LDK」。リビング・ダイニング・キッチンが大事ということですね。
大人も、フリーアドレスやシェアオフィスの時代に
最後に余談。
今、IT企業を中心に、社員ひとりひとりのデスクを持たないフリーアドレスが流行っています。
昨年2016年に移転をしたヤフージャパン東京本社は、全社員に対してフリーアドレス制を導入し、全社員約5,700名が20フロアある好きな場所で仕事ができるようになりました。図書館やカフェで仕事をするような感覚です。
また、ITの進歩によりパソコン一台で仕事ができるフリーランス(個人事業主)が増加し、それに伴ってシェアオフィスの活用も一般化しました。自宅兼オフィスがあっても、シェアオフィスを使うフリーランスがたくさんいるのです。
こうした動きも、子供が勉強場所にリビングを選ぶのと似ていますね。仕事をする場所も、勉強する場所も、一ヶ所に固定されない方がはかどる人が多いのです。
リビング学習は、コミュニケーションが取れて、勉強もはかどる。子育て中の方は、ぜひ住宅購入や部屋探しの指標にしてみてくださいね。
(わが家も、LDKが広い部屋に引っ越したいな……。がんばろ)