ダイアログ・イン・ザ・ダークを、初めて体験してきました。
ダイアログ・イン・ザ・ダークとは、光を完全に遮断した純度100%の暗闇の中で、盲目の方のアテンド(ガイド)により視覚を閉ざした世界で、日常生活や対話を楽しむことができるソーシャル・エンターテイメントです。
実際に体験するまでは、「目が見えない不便さを知ろう」「障がい者に優しくしよう」など道徳的な意味合いなのかなと思っていたのですが、全然違いました。すごくエキサイティングで最高に楽しかったのです!
これは本当に面白くて、終始ワクワクしっぱなし。体験を終えた今、ぜひ、皆さんにも体験してもらいたいなと心より思っています。
今回は、素晴らしい経験をさせていただけた「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の魅力について、皆さんにお伝えします。
ダイアログ・イン・ザ・ダークとは
まず、ダイアログ・イン・ザ・ダークについて、公式サイト (did.dialogue.or.jp) を参考にし、ご説明します。
ダイアログ・イン・ザ・ダーク(Dialog in the Dark)とは、直訳すると暗闇の中での対話。一切の光が遮断された純度100%の暗闇(照度ゼロ)の中で、聴覚や触覚など視覚以外の感覚を使って、日常生活を体験したり、人とコミュニケーションしたりする、ソーシャル・エンタータイメントです。
ただ「見えない世界」の追体験をするのではなく、 人と人とのかかわり、つながりをどう育み、保っ ていくのかを体感していきます。
ダイアログ・イン・ザ・ダークが誕生したのは、1998年のドイツです。そこから各地へ広がり、世界47か国以上で開催されるほどになりました。日本においては現在、東京・竹芝にあるダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」と、東京・神宮外苑にある「内なる美、ととのう暗闇。」にて開催されています。
ダイアログ・イン・ザ・ダーク、初体験の感想
僕が訪れたのは、ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」のダイアログ・イン・ザ・ダークです。海に面した商業施設「アトレ竹芝」のシアター館・1Fにあります(東京都港区海岸1-10-45)。
会場へ到着すると、まずはスタッフの方より説明を受け、受付そばにあるロッカーに手荷物をしまいます。暗闇の中では視覚以外の感覚を頼りに行動するので、光を発したり音が鳴なったりするスマートフォンや腕時計などは持ち込み禁止ということです。
僕は、バッグとポケットの中身を全部ロッカーに預けました。
参加者は初対面、最初は堅苦しく他人行儀
さて、いよいよ開始時間になり、一緒に参加するメンバーが呼ばれました。グループ単位で入場し行動を共にするのですが、最大人数は8名ということです。僕が参加したグループは5名。それぞれがひとりでの参加で、全員が初対面という組み合わせです。
まずは、僕たちを案内してくださるアテンドと呼ばれている方よりご挨拶。セトセットさんと言う盲目の男性です。ちなみにセトセットというのはあだ名で、ここでは参加メンバーもみんなあだ名で呼び合います。セトセットさんの司会進行により、みんなで自己紹介。そして少し雑談。
このときはまだ、皆さん他人行儀です。
いくらあだ名で呼び合ったからといって、出会って数分ですからね。
完全な暗闇へ……
僕たち5名は、セトセットさんに連れられ歩いて会場内へ。
本当に何も見えないんです。目を開けても、目を閉じても、何も変わりません。何分か経って目が慣れてきても暗闇のまま。自分の手を目の前に近づけても、あるのか無いのか、何も見えないのです。
完全な暗闇に来てしまいました。
セトセットさんは「皆さん、私についてきてくださいね」と、どんどん進んでいきます。実際はどんどん進んでるのか、ゆっくりと進んでいるのかわかりません。
みんなと同じ方向を向いていて、みんなも側にいるのかな?
何も見えないので、とにかく不安。
他の参加者さんと助け合いながら行動
とはいえ、不安なのは僕だけではありません。他の参加者さんも同様です。
そんな僕たちに、セトセットさんは暗闇で行動するアドバイスしてくれます。「名前を呼び合って」「後ろの人に教えてあげて」「自分の肩を貸してあげて」など。
さっきまで全くの他人だったのに、もはや助け合わないと動けません。
また、動くたびに人に何度も触れてしまいます。
「あ、ごめん! 当たっちゃった」
「ううん、大丈夫」
「で、今、触れてしまったあなたは誰?」
「〇〇ちゃんです」
「そっか。ちなみに僕はキタピーです」
そんな会話を交わしながら、そろりそろちりと。
視覚以外の感覚が研ぎ澄まされる
数十分後、僕は視覚以外の感覚が研ぎ澄まされていることに気づきました。
声を発した方がどの方向にいて、どれくらいの距離感なのかが、おおよそ検討がつくようになったのです。これまで視覚で判断していた方向や距離が、聴覚で推測できるようになりました。
また、誰かに触れたとき、その方の服の手触りで誰だかわかるようになりました。細かなメッシュ素材の方はマーさん、ツルッとした素材の服を来ている方はパーちゃん、といった具合に。この感覚は触覚ですね。
それと、場所を移動したときに若干匂いの変化を感じることもありました。「どうやら違う場所に来たような気がするぞ」「この辺りには〇〇があるのかな」など、嗅覚で状況の変化がわかるように。
人間というのは不思議ですね。視覚を失ったら別の感覚が総動員して、視覚で得ていた情報を補おうとしてくれるのです。
目の前に美しい能登の風景が浮かんできた
ところで、東京・竹芝で開催のダイアログ・イン・ザ・ダークは、季節などによって趣向を凝らした企画が行われているそうです。基本的なコンセプトは同じですが、時期によって様々な体験ができるよう工夫されているとのこと。
僕がうかがった際の企画は、能登の祭りをテーマとした夏季限定プログラム「暗闇の夏祭り」でした。
これから体験する方は何も知らずに挑むべきかと思いますので、ここでは詳しくは言いません。ただ、僕の目の前には能登の美しい景色が浮かんできました。何も見ていないのに、風景がフワッ、フワッ、フワッ……と広がってくるのです。他の体験者の方も、きっと同様だったと思います。
僕たちは能登の夏を堪能しながら、みんなでお喋りを楽しんだのです。
それはとてもキラキラとした、素敵な時間でした。
所要時間は90分間、あっという間!
ダイアログ・イン・ザ・ダークの1回の所要時間は90分間です。始まる前は「結構長いな」と思っていたのですが、実際経験してみると、あっという間。
「もっとみんなと一緒に過ごしたかった」
「もっと暗闇の空間を味わいたかった」
素直にそう感じました。
ダイアログ・イン・ザ・ダークは「ソーシャル・エンターテイメント」と公式ウェブサイトなどには書かれていますが、まさに人と関わりながら楽しめるエンターテイメントだったと実感。とってもエキサイティングなのです!
心と心でつながれる優しい世界
アテンドのセトセットさんが最初にご挨拶してくれたとき、僕は正直、「あぁ、目が見えないのか。可哀想だな」と思ってしまいました。
人のことを可哀想だと思うなんて、上から目線で酷い反応ですよね。
でも、盲目のセトセットさんは暗闇のベテラン。僕が暗闇で焦っているとき、セトセットさんがとても頼りになる存在に思えました。「セトセットさん、どこにいるんですか?」「どうやって動けばいいですか!?」など、僕はあたふた。
後半には「師匠〜!」なんて思わず口から出てしまいました。
最初にセトセットさんを可哀想だと思った自分を恥じました。すごく親切で優しく、頼れる方なのに!
他の参加者さんに対しても、似たような想いをいだきました。最初は他人行儀だったのに、助けたり、頼ったりしているうちに、距離感がグッと縮まったのです。しかも、暗闇の中で話すことで、見た目から受ける先入観が無く、心と心でつながれたような気がしました。
暗闇の会場を出たあと、みんなでテーブルを囲ってお喋りをしたのですが、まるで友達のようにフレンドリーな会話を楽しむことができました。90分前とはまるで違う関係性です。
ダイアログ・イン・ザ・ダーク 疑問質問
ダイアログ・イン・ザ・ダークは、最高に素晴らしかったです! そこには優しい世界があったのです。興味がある方も、行くまでは「本当に有意義なのかな?」「一人でも大丈夫なのかな?」など疑問が湧くかと思います。
僕はたった1度しか経験していませんが、わかる範囲でダイアログ・イン・ザ・ダークについてQ&A形式でお伝えしたいと思います。
Q. 一人で行っても大丈夫?
A. 全然大丈夫です! 僕は一人で行きました。これまで経験したことが無い世界での体験になるかと思うので、むしろ知り合いが居ない方が世界観にどっぷりとハマれるかと思います。気恥ずかしさも無く、あだ名で呼び合ったり、本音で対話できたりするでしょう。
おひとり様でも、気になったらぜひ!
Q. 恋人同士や夫婦や行くのはあり?
A. 良いと思います! 目が見えない分、聴覚や触覚など他の感覚、そして言葉で「心と心を通わせる」ことになると思います。そのことで、これまで気づかなかったパートナーの一面を知れるかも知れません。
ふたりの仲も深まるのではないでしょうか。
Q. 親子で行くのはどう?
A. ダイアログ・イン・ザ・ダークは、小学生から参加可能です。日本では子どもの参加者は全体の3%程度だそうですが、海外では参加者の約60%が子どもなのだそうです。「相手がよろこんでいると自分もうれしくなる」など、他者への関心・他人と喜びを共有したいという意欲が向上したというアンケート結果があります(参考:公式サイト)。親子もそうだし、お友達と参加するのも良さそうですね!
体験後、親子揃って「社会の見え方」や「価値観」が変わっているのを感じることができるでしょう。
Q. 参加時の服装は?
A. 暗闇の中で行動するので、動きやすい服と歩きやすい靴だと安心です。あとは、素材を気にしてみると良いかと思います。お互いに触れ合う機会があるのですが、僕は生地の素材で相手が誰だか判別がつくようになりました。
あと、体験中は何も見えないので、おしゃれかどうかは頑張りすぎなくて大丈夫です。
Q. 香水はつけてもいい?
A. 控えておいた方が良いと思います。制汗剤や加齢臭などのニオイケアは良いと思いますが、強い香りを放つコロンはやめておきましょう。
Q. メガネは外した方がいいですか?
A. 僕が参加した際、メガネをつけていた方がいらっしゃいました。その方が「メガネはどうしたら良いですか?」とスタート時にアテンドさんに相談したところ、「あっても無くても同じなので、外していかれた方がいいと思います。あと、暗闇で落としたら大変なので」とアドバイスをもらい、入場時に預かってもらっていました。
受付の際、メガネについて聞いてみるといいかも知れませんね。
Q. また行きたい?
A. また行きたいです!
ダイアログ・イン・ザ・ダークでしか体験できない不思議なこと
ダイアログ・イン・ザ・ダークには、ここでしかできない体験がありました。僕はこれまで、これと同様、もしくは似たような経験をしたことがありません。
極端な例えだと思えるかも知れませんが、「宇宙へ行く」くらいの新鮮な感動がありました。
自分がどこに居て、どうやって動けばいいのかわからなくなるのですから。でも、アテンドさんからアドバイスをもらったり、他の参加者さんと助け合ったりすることで、徐々に動けるようになってくるのです。
そして暗闇での対話も新鮮でした。視覚が無い分、相手のことを想像しないといけないですよね。また、言葉だけで伝わるよう、話すトーンや言葉選びも、自然と相手を思いやるようになってきます。
その結果、心と心を通わせている感覚に陥りました。
不思議で、新鮮で、感動があり、居心地がいい。
そんな素敵な空間でした。
2024年夏季限定プログラム、能登の祭りをテーマとした「暗闇の夏祭り」
東京・竹芝で開催のダイアログ・イン・ザ・ダークは、季節などによって趣向を凝らした企画が行われています。僕が体験したのは、こちらになります。
能登応援特別企画「暗闇の夏祭り」コンセプト
能登を想う夏。
能登にはすごいお祭りがある。
太鼓の音。激しい声。
今年の夏は叶わずともきっと必ず帰ってくる。
なぜって世界に誇れる素晴らしいお祭りなんだから。
復興を願い私たちもお手伝いさせてください。
暗闇の中の夏祭り。
能登と私たちを繋げよう!
開催概要
- 開催期間:7月9日(火)〜8月31日(土)
* 一部、休演日あり - 開催場所:ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」(東京都港区海岸1丁目10−45 アトレ竹芝 シアター棟 1F)
- 体験時間:約90分
- 料金(税込):大人 3,850円、学生 2,750円、小学生 1,650円
- 予約:WEBより事前予約制となります
https://did.dialogue.or.jp/
最後は、思い出にスタッフさんと記念撮影。ありがとうございました!